あの稜線の向こう側 大菩薩峠から
夏のある週末の日
アスファルトの上はジリジリという音が
聴こえるほどの温度の中
僕は大菩薩峠に向かった
春夏冬の里山はとても良いけれども
夏だけは苦手である
標高100メートルごとに0.6度下がる気温に
僕はおもちゃで遊ぶ少年のように
心を踊らせる
時おり現れる青梅街道の温度表示版が
高度を上げるごとに下がっていく
真夏の記憶
中学生の頃、夏休みにサッカー部の練習に
向かう通学路
ドブ川の匂いと土手沿いに照りつける太陽
僕はこれから始まる炎天下での走り込みの
練習に憂いを覚える
時々想い出すあの夏の暑さと友達の記憶
大菩薩峠の麓に車をとめて、
半分凍らせたスポーツドリンクを背負って
走り出す
頭の中では最近の忙しい日々の記憶が
交差している
涼しい風が吹き、渓流の水の流れの音が
それらの喧騒を消し去っていく
しばらく進むと
ひらけた景色が僕を迎えてくれた
立ち止まって深呼吸をする
あの稜線に向かって僕は再び走り出す
あの稜線の向こうにはこの夏を思い出
に変える先の時間が続いている
そう、僕は未来に向かって走り出す
あの稜線の向こう側に向かって